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介護における柔整の現状 
―介護保険における柔道整復師の役割―

2010/08/01

厚生労働省は介護予防の例として、運動器の機能向上や栄養改善、口腔ケア、認知症予防、引きこもり予防等を提唱しているが、とりわけ効果が目に見える運動器の機能向上に取り組んでいる市町村が多い。これは、運動機能向上は栄養改善や口腔ケアなどよりも高齢者の理解が得られやすく、比較的コストも安いことから実行している市町村が多い。

介護保険給付費抑制の切り札として鳴り物入りで導入された地域支援事業の介護予防事業であるが、全国的にみても満足できる結果が得られていなく、効果的な方法の模索が続いている。

介護予防事業が滞っている最大の問題点は、この事業の対象者である特定高齢者の把握が進んでいない点である。厚労省は介護予防事業導入に当たり、特定高齢者の20%を要支援・要介護に移行しないよう数値目標を設定しているにもかかわらず、特定高齢者が「どの地区に、どれだけ住居しているか」の具体的な数値は把握していない。

平成18年8月下旬に厚労省が全国800の自治体に発送したアンケートによると、民政委員や社会福祉協議会、老人会、医師会などの協力により特定高齢者の把握に努めている市町村はわずか20%以下で、特に人口10万人以上の市においての作業は困難を極めている状況であり、その状況は今日まで変わっていない。

特定高齢者の数を正確に把握する作業は各地域に設置してある地域包括支援センターが中心となり情報の収集が行われるが残念ながら進んでいない。地域包括支援センターは市の介護業務を委託し運営している機関で、介護保険に関わらず人権問題はじめ地域の高齢者が関わる様々な問題の窓口としての広範囲な役割を有している。高齢化の進む中、特に地方都市における高齢化率は年々上昇し、さらに平均余命の伸びは認知症高齢者の増加といった新たな問題を生じさせ、高齢者が関係した事件、事故等のトラブルは激増している。地域包括支援センターの果たすべき役割も使命も増大しているが、僅か数名の職員により運営されている現状では職員の献身的努力を持ってしても困難な状況である。

地域包括支援センターの担当行政地区に居住している高齢者の緊急対応に忙殺され、運動機能向上教室や転倒予防教室などの地域支援事業に分類される介護予防事業が満足に実施できない状況である。

では、これらをふまえて柔道整復師がどのように介護保険事業に関わるか私論を述べたい。

 

介護保険における柔道整復師の現状

柔道整復師、特に開業している柔道整復師が介護保険分野へ参入するためには、1) 経営者として法人を設立して介護事業を進める。 2) 機能訓練指導員として介護予防事業に携わり運動器機能回復訓練を行う。ことの二つに分けられる。前者の経営者として介護保険事業に参入することは、個人の裁量のため柔道整復師といった資格は無関係である。との意見や外傷の専門家である柔道整復師が介護に・・・。といった否定的に捉えられることも多い。

しかし、行政が主導する介護事業における柔道整復師の役割も、接骨院との関係も明確ではない現在、柔道整復師という国家資格を持った専門家の集団、特に我々の得意とする骨、運動器系へのアプローチとしての運動機能回復訓練を介護保険現場にて提供する意義は非常に大きい。超高齢化社会を迎えるにあたり医療の現場も介護の現場も人手不足、人材不足に悩まされている。外傷、怪我の専門家である柔道整復師の知識と技能は介護予防分野、特に運動機能回復訓練の分野では即戦力となり、行政が掲げる介護予防事業の牽引役を担う最適な職種である。高齢者では腰部や頸部などの筋骨格系の疼痛や障害は、日常生活の遂行能力を低下させるだけでなく、社会的参加を制約し、家への閉じ籠もりや寝たきり老人の原因になる。さらに、高齢者は、消炎鎮痛薬や手術に対して抵抗性が低く、非侵襲的施術を主とする柔道整復師の果たす運動機能回復訓練の役割は極めて重要である。これら我々の得意分野を、柔道整復師自らが行政や介護分野へ発信することは、介護保険分野での柔道整復師の役割を認識させる意味から絶好の機会である。

さらに、介護分野へ参入した柔道整復師は土木や建設、運輸といった他業種との差別化を図る意味でも横の連絡を密にして情報の共有と活用を行うことは意義深く、社団や各種業界団体を軸として行政機関と折衝することにより、現在、グレーゾーンとされている接骨院と介護施設併設型施設における療養費と介護保険費の明確なルールを構築する作業も併せて必要であろう。

前述の介護保険における柔道整復のメリットが皆無である現状だからこそ、柔整業界が行政に積極的に働きかけ、一体として超高齢化社会に共に取り組んでいく姿勢をアピールしなければならない。そして、このことが柔道整復業界の大きな使命の一つであるとの共通認識が全柔道整復師に必要である。介護分野に柔道整復師の役割を認識させ、「運動機能回復訓練=柔道整復師」との新たな認識が国民、市民に定着させることが柔道整復師の新たな試みの一つであり、柔道整復の可能性を飛躍させるものと期待する。